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亡羊と遊ぶメランコリー――小説家志望・束木志埜のブログ

小説家を目指すわたくしのブログ。色々なことに関心を持ち、できる限りのことをしたく思います。小説・アニメ・漫画等々の感想や日々のこと、創作についても書いていきます。よろしくお願いします!

ネット小説『龍と奏でる英雄譚』6話

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前話(5話)・次話(7話)

目次

 前書き

 今日は、この『龍と奏でる英雄譚』以外にも、ティムバートンの新作映画と彼の他の作品についての紹介記事も投稿しております。ということで、よろしければこちらもよろしくお願いします。

tabakishino.hatenablog.jp

 

 ちなみに、今からお見せするお話は『第十一回小学館ライトノベル大賞』の一次通過、二次落ち作品です。ライトノベルとしてきちんと形ができていたら良いなぁ、と思います。

 では、本編です。

 

龍と奏でる英雄譚――6話

 ベールディアが黙り込み、俯き、拳を硬く握り込んだ。
 空気が急激に重さを増した、という錯覚。
 ラウルは不思議と、酒場から全ての音が消えたように感じた。何か、嫌な予感がした。
 そして、その予感は一瞬で現実のモノとなった。
 ベールディアが目を見開き、全力でラウルへ吠え掛かったのだ。
「お前程度の人間がバロックアート様を侮辱するな!」
 酒場が揺れたのではないだろうか、とラウルは場違いな感想を得た。
 ラウルは、ベールディアの地雷を全力で踏ん付けてしまったようだ。彼女の持つ獣の耳が、威嚇するように逆立っている。眼鏡の下から覗く眼光は、肝の小さなラウルを殺しかねない。
 肩を落とし、ラウルは謝罪の言葉を口にした。
 ベールディアの怒りを更に刺激するのは得策ではないと、ラウルは彼女に背を向けて歩き出した。当然のことではあるが、彼女は追いかけては来ない。
「本当に、お前は英雄を侮辱しています」
 ぽつり、とラウルの背へと声が当てられたが、彼は聞こえなかったと自身へ嘘を吐く。知らぬ体で酒場の店主の元に向かうと、なけなしの金を差し出し、今日の酒代を支払う。
 金を受け取った店主は、顔を顰めて、
「おい、ラウル。壊した店の修繕費がねえぞ」
「よしてくれよ、爺さん。オレのこの薄汚い格好の、何処にそんな金があるように見えんだ? 歳かよ、心配だな、おい」
「お前の方こそ、殴られた所為でボケたんじゃねぇか?」
「オレがそんなに繊細に見えるかよ?」
「……見えるな」
「ちっ。ま、悪い。修繕費は次来るときに渡すよ。幾らだ?」
「冗談に決まってるだろう。金を請求して逃げられちまうより、今後もご贔屓にって言うのが客商売だ、若造が。わかったら次は黙っておくことだな」
 店主はラウルの身を案じてくれているのだろう。その皺だらけの目元に、更なる皺を増やし、優しげな声音で忠告してくれる。
 しかし、それは余計なお世話であった。
 それでも、店主の気遣いを無碍にする訳にはいかない。ラウルは表情に明るさを足すと、自身の髪をガシガシと掻き乱しながら言った。
「わかってるって! もう二度と女の子なんて助けねえ」
「ふん、わかれば良い。ほら、土産に持ってけ」
 呆れた表情で店主は木製のジョッキを渡してきた。そのジョッキは、先の騒ぎの所為で微かに亀裂が走っていた。中では酒が波を打っている。
 サービスだろう。
 ラウルは礼を言うと、その足で店から出て行った。
 そのようなラウルの背を見届けた後に、店主は溜息と共に愚痴を漏らした。
「そんなに簡単に人を見捨てられたら、お前もずっと楽だっただろうにな。……英雄様よ」

 

   ▽

 初恋というモノは、恋をしたことのある者全てが経験する、ありふれた感情であり経験だ。しかし、初恋は一度しか訪れない、特殊な経験でもある。
 誰にとっても初恋の記憶というのは、心と魂に刻まれる重大な事件だ。
 ラウル・シーンスにとっての初恋の思い出は、同時に悲嘆の思い出でもあった。ただ振られただけというのならば、まだ救いはあったかもしれない。
 彼の場合は少々事情が異なる。
 ラウルの初恋の相手は元パートナーであった少女。――ベールディア・ティファンであった。
 ベールディアのラウル嫌いは筋金入りだ。
 王国により招集された六人の英雄。そして、その英雄たちには、それぞれ王国が選んだパートナーが付く。
 ラウルとベールディアはパートナー同士であった。
 その関係は、一ヶ月と続かなかったのだが。
 ベールディアは早々にラウルを見限り、英雄の中の英雄と呼ばれるバロックアートの元に行ってしまった。
 好いた相手に見限られ、裏切られ……それでも良いかと考えてしまった自身に、ラウルは心底落胆した。
 自身の愛情はその程度だったのか、と。所詮、自分は人を愛することもできないのか、と。
 ラウルは、自身の愛がベールディアに拒絶され、罵倒され、蔑まれたとき、僅かな安堵を覚えてしまったのだ。
 自罰趣味があるのではない。
 彼は、自分では誰かを幸せにできないと、そう気が付いていたのだ。最愛の人を傷付けずに済む、と安堵したのだった。
(あいつを好きになったのだって、そもそもオレの我が儘だしな)
 ベールディアは妖人だ。世界から蔑まれる、人ならざる生物だ。ただ存在するだけで人々から嫌われる、場合によっては家族からすらも愛されない種族だ。
 そのような彼女が、努力と才能だけで英雄のパートナーの座に付いた。今では、人目を気にして妖人を連れる筈のないバロックアートが仲間として受けいれている程だ。
 苦悩があっただろう。困難があっただろう。想像を絶するような努力があったのだろう。
 けれども、彼女はそれを見事乗り越えたのだ。
 ラウルはそのような彼女を尊敬し、やがてその心は恋へと昇華した。今にして思えば、恋心は幻想だったのかもしれない。
 ただラウルは彼女に共感したに過ぎない。彼女の気持ちがわかったような気がしただけなのだろう。故に、ラウルは己の感情を……我が儘だと表現する。
 今でも、ベールディアに出会い、彼女から蔑みの目で見つめられる度、心が凍り付くように痛む。つまらない考えに支配されてしまう。
 彼女は今、バロックアートの元で栄光を掴んでいる。邪魔をしてはいけない。
 ラウルは暗くなる感情を殺すべく、酒場の店主の好意に口を付けた。

 

前回・次回

前回(5話)・次回(7話)

 

反省会

 ちょっとだけ暗い話が続きます。それの緩和剤として店主さんを登場させましたが、もしかすると緩和剤として機能しすぎているかもしれません。今は、不満であったり、理不尽などを経験させ、後のカタルシスへと繋げるための「溜め」の場面なのですが、それが随分と緩和されてしまったように思われます。

 理解者を出すのは、もう少し先でも良かったような気がします。なんでしたら、これまた店長さんを登場させないのも手だったかもしれませんね。

 安易な登場人物の追加は、わたくしの悪癖ですね、治さねば。

 

 ということで、さようなら。