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亡羊と遊ぶメランコリー――小説家志望・束木志埜のブログ

小説家を目指すわたくしのブログ。色々なことに関心を持ち、できる限りのことをしたく思います。小説・アニメ・漫画等々の感想や日々のこと、創作についても書いていきます。よろしくお願いします!

ネット小説『龍と奏でる英雄譚』16話

龍と奏でる英雄譚
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前回(15話)・次回(17話)

 

目次

 

前回のあらすじ

 ラウルの身体に刻まれた、傷。それはかつて母親から付けられたモノであった。心と身体に刻まれた深い傷に対して、ドロシーは……

 

 という感じです。

 では、本編へ。

 

 龍と奏でる英雄譚――16話

 

「お母さんだ。あの歌はお母さんが作った」
 ドロシーは得心いった、と頷くと、ラウルの元に近寄った。
 彼女は慈愛に満ちた表情を湛えると、その手を大きく開いた。
 ラウルは小さな悲鳴を上げてしまっていた。
 酒場のことを思い出す。ラウルは、明らかに実力の劣る男に、本気で恐怖していた。それは死を、傷を恐れてのことではなかったのだ。あれは、母親を思い出して恐怖していたのだ。
 ラウルは怖い。誰かが手を振り上げるだけで、害されるのだと確信してしまう。誰かが何気なく包丁を握るだけで、首を絞められたときのように呼吸が荒くなる。
 ドロシーは手を大きく開いたまま、更にラウルに近寄ってきた。息と息が交差する、手を少し伸ばすだけで相手の首が絞められる距離。
 けれども、ラウルの恐怖は杞憂だ。
 ドロシーに彼を害す意は存在しない。寧ろ、逆だった。
「え?」
 暖かな、体温。
 優しい声、心を溶かす、穏やかな、愛のこもった、声。
 ラウルは抱きしめられていた。背に手を回され、少女に身体を包み込まれていた。柔らかな感触が、ラウルをひたすらに受け止めていた。
「辛かったわね」
 それだけ。
 それだけの言葉なのに、ラウルは何故だか報われたような気がした。すぅーっと、心に燻っていた絶望の芽が切り裂かれた。
 ラウルの瞳には、我慢しても止められない、熱いモノが溢れていた。
 ドロシーは、そっとつぶやく。教え、諭すように。
 それはまるで幼子を諭すようだった。
「貴方のお母様が歌っていたのは……呪歌なの」
 ドロシーは言う。
 呪歌。それは悲しい歌。
 何かを犠牲にすることによって、何かを得る、そんな歌。
 ラウルの母が歌っていたのは、『奏者の自我を壊し、その代償に身体能力を飛躍的に上昇させる』効果を持つ。
 ドロシーはそう解説した。
「でも、この歌は不完全。おそらく、ラウルくんのお母様は呪歌を奏唱するつもりはなかったわ。偶然、呪歌になってしまったのよ」
 それは十分にあり得ることであった。
 奏唱というのは、全世界の研究の末に発見された。今だって、一つの何気ない魔法を生む為に、国や研究機関が血眼で歌を作っている。
 されど、その研究も、始まりは偶然だったに違いないのだから。何処かの誰かが気まぐれに歌った歌が、魔法を生み出したのだから。
「そして、ラウルくん。貴方は、貴方のお母様に――愛されていたのね」
 ドロシーの声音は相変わらず優しかった。だけれども、ラウルにはまったく以て意味がわからなかった。わかる筈もない。
 あれだけ暴力を振るった母が、自分のことを愛していただなんて信じられない。虚言と斬り捨てて構わないであろう、完全なる妄言だ。
 いよいよ、先の禁歌の話も嘘偽りかと感じていると、ドロシーが続きの言葉を舌に乗せた。
「ラウルくん。貴方の歌っていたモノは、貴方の想像以上に――禁歌を蒐集している妾が目を付けてしまうくらいに、危険なモノなのよ。それの影響下にあった貴方のお母様は、どうして貴方を殺さなかったのかしら?」
 言われてみて、ラウルは雷に打たれたような気付きを得た。
 自我を壊され、破壊衝動に満たされた母。身体能力も上昇していたことも考慮に入れると、幼かったラウルが殺されていないのはおかしい、と考えられる。
 では、どうして母はラウルを殺さなかったのだろうか。いや、正確には、殺さずに済んだのだろうか。その答えを、ドロシーが改めて語った。
「貴方を愛していたからよ。だから、貴方のお母様は最後の一線を踏み越えなかったの」
 呪歌の影響で殺したくて仕方がなかっただろうに。
 ラウルの母はそれを愛情で必死に食い止めたのだ。
 少なくとも、ドロシーはそう考えているのだろう。
 しかし、ラウルはそれを認められなかった。ドロシーの言う呪歌の効果が真実だとしても、それが母の愛の証明になるというのは、些か発想が飛躍している。
 受け入れることはできない。
 ドロシーの考えを受け入れてしまったら、ラウルはどうしようもなくなってしまう。恨みを向けていた母親が、一転して被害者に変わる。感情を何処に持っていけば良いのかわからなくなる。今更愛されていたと言われても、愛していただなんて言われても、ラウルにはもう許しようなどないのだ。
 愛していたのなら、もっと早くに虐待を止めて欲しかった。もっと優しくして欲しかった。もっと名前を呼んで欲しかった。もっと――生きて欲しかった。
 自殺なんて、して欲しくなかった。
 ラウルは希望に縋るように、ドロシーの意見に矛盾を探す。
「歌の所為だってんなら、歌うのを止めれば良かったんだ。オレの場合は、音痴が原因で正常に効果が出てなかったんだろうが、普通は気付くだろうが」
「呪歌には中毒性があるのよ。知らず、口遊んでしまうの。それに、効果は元々不完全よ。気付いたのはきっとかなり後ね」
 ラウルはまだ矛盾点を探そうとしたが、それは終ぞ見つかることはなかった。仮に、ラウルが何か見つけたとしても、ドロシーには反論の言葉が用意されていることだろう。
 故に、ラウルは諦めた。その代わりに、
「ふざけんな!」
 有りっ丈の声を振り絞り、ドロシーへと怒声を浴びせ掛けた。
「お母さんには暴力を振るうつもりがありませんでした? なんて今更言われて、オレァどうしたら良いんだよ! もう許せねえよ! 怖えんだよ! 意味ねえんだよ!」
 ラウルの叫びはしどろもどろで、子どもの癇癪にも見えた。
「オレは一生、お母さんをあ――許せねえ! それでいいじゃねえか。なのに、あんたはどうして今更……」
「貴方が傷を治したがらなかったから」
 ラウルは言葉を紡げなくなる。ドロシーの言葉は、ラウルが秘めていた心全てを白日の下に曝し出した。
「貴方は……」
「言わなくて良い!」
 本当は母を許したかっただなんて、ラウルは思っていない……筈なのだから。

 

   ▽

 

前回・次回

前回(15話)・次回(17話)

 

反省会

 今回の反省は展開について、です。

 母親がどうしてラウルに手を上げてしまったのか、というのがこの回で解ってしまいます。これはやや尚早であったように思われます。今改めて読んでみれば、という気付きですね。

 謎によって読者の興味を引く方向に持って行くべきでした。何故なら、読者産は本来、続きが気になからページをめくるわけです。だというのに、少し前に(一ページも経っていない)のに謎が解決されてしまうのはもったいない!

 ですから、この時点では「母親が暴力を振るったのは歌の所為」という事実だけを提示しておくべきでした。で、クライマックスで呪歌の効果が判明する、という方がカタルシスが多いように思えます。ただし、その方向で行くならば、歌の内容がある程度推理できるように伏線を入れておかねばならないでしょう。

 特に、母親がラウルを愛していたという事実は、今に描くべきではなかったでしょう。

 

 おそらく、この失敗はわたくしの心の弱さが起因しております。というのも、これを書いた当時、わたしくには恐怖がありました。あまり暗い展開だと、読者さんが読むのをやめてしまうのではないだろうか、という恐怖でした。ですから、暗い展開の後に、すぐさま救いを入れてしまうのです。

 これは酒場の主人さんの時にも経験したミスですね。

 

 安易な救いを作ってしまうのは、わたくしの悪い癖です。本来ならば、救いを与える以外の方法で読者さんの気を引くべきなのです。その方法を模索していく必要があるでしょう。

 今回の場合は、謎を残して、それに読者さんの興味を持っていくように書く、ですね。対処方法は毎回異なりますから、これは今回だけの対策になります。

 

 ちなみに、このお話は反省会をするため、敢えて誤字に至るまで、投稿時と何も変えていません。ですから、今反省点に気が付いてももう遅いのですよね。寂しいことに。

 

 では、さようなら。

 

 

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次回・前回

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