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亡羊と遊ぶメランコリー――小説家志望・束木志埜のブログ

小説家を目指すわたくしのブログ。色々なことに関心を持ち、できる限りのことをしたく思います。小説・アニメ・漫画等々の感想や日々のこと、創作についても書いていきます。よろしくお願いします!

ネット小説『龍と奏でる英雄譚』18話

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前話(17話)・次話(19話)

 

目次

 

前回のあらすじ

 ドロシーと共にベッドに入ったラウル。しかし、へたれの彼は何もできず、かといって何も気にしないこともできず、悶々とした夜を過ごすことになる。

 今回は、そのような夜の一幕。

 いざ本編へ。

 

 龍と奏でる英雄譚――18話

 気まぐれに息を殺してみると、身動ぎ一つしていないのに、掛け布団がほんのりと上下する。普段ならば聞き逃したであろうドロシーの寝息が、生々しい色気を孕んでいるのに、ラウルは気が付いてしまった。
 このままではいけないと、ラウルは寝返りを敢行した。
 ドロシーに背を向けるようにして、彼女の優しい体温を拒絶するようにして、ラウルは寝返りを打った。
 乱れそうになる息を意図して宥め、瞳をきつく閉ざし、夢への扉を執拗にノックした。
 数時間もそうしていると、気持ちの悪い汗がジットリと身体を濡らし始めた。肉は安らぎを求めるが、自身の心は隣で無防備な姿を晒す女人の肉を欲している。この感情は不浄ではあるが、実に真っ当な感情でもあった。
 ただ、悲しいかな。彼にはその獣の欲を制するだけの理性があった。
 呼吸のタイミングがドロシーと重なる度に、ラウルは背徳的な幸福を得てしまう。
 その時、ラウルの背後で絹が擦れる音がした。ラウルは思い出す。
『でも、服を着たまま寝るのはどうにも気持ち悪いから……』
 ラウルが風呂に入るより前に交わされた、ドロシーとの会話。
「ん……んぁ」
 熱い吐息が、ラウルのうなじを通り抜けていく。背後の気配は、ラウルの思考を鮮明なモノへと変えてしまう。
 やがて、音は消える。その代わり、ラウルの背を撫でる暖かさが別のモノへと変異した。
 嫌な予感を察知したラウルは、逃げ出そうとベッドから抜け出そうとした。けれども、それよりも早く、ドロシーの方が動いていた。
 ふにょん、と二つの弾力が押しつけられた。
 ふかふかとした、柔らかいが確かな反発力のある、男子垂涎の至高の感触が、ラウルの背中に押しつけられている。
 ラウルが顔を嘘のように赤らめていると、今度はドロシーの足がラウルの足に絡まってきた。ドロシーの下半身が、ラウルの臀部に触れている。
 羞恥と興奮が一周して泣きそうなラウルを置いて、ドロシーの腕がそっとラウルを包み込む。
 最早、ラウルは沸騰寸前。脳が頭蓋を突き破り、興奮の喝采を上げるのでは、などという未来もいよいよ現実味を帯び始める。そんな中、
「……お母様」
 ドロシーの、涙気を交えた寝言が、耳朶を撫でた。彼女のそのような寝言を耳にしたラウルは、不意に毒気が抜かれてしまう。
(オレにはあんたのことはわかんねえけど)
 ドロシーが寂しがっているということだけは理解できて。
 明日の朝。ドロシーが一人で起きてしまうことは、凄まじい悲劇のように思えた。
 だからラウルは逃げられない。
 ラウルとて寂しいときは誰かの温もりが欲しい。
 明日の朝、起きたとき。少しでもドロシーの笑顔が穏やかなモノに変わるのならば、緊張くらいは乗り越えよう。
 ラウルは諸々を吹き消す為に深い深呼吸をして、そのまま温もりに意識を託したのだった。

 

   ▽


 開かれた窓からは、洗練された空気が侵入してくる。
 微睡みを人々から追い出そうと、爽やかな風が部屋を瞬く間に走り抜けた。朝風と日の光は、元気に朝の来訪を告げてくる。
 心地の良い朝だ。
 嫌味の感じられない朝に、ドロシーは目を覚ました。
 普段よりもずっと気持ちの良い朝だった。心が満たされるような、良い一日を期待せずにはいられない、そんな朝。
 素敵な朝を作ってくれたのであろう原因は、自身の腕の中で行儀の良い寝息を奏でている。
(普段は音痴でも、寝息は可愛いのね)
 ドロシーは、青年の微笑ましさに感化され、笑顔を深めた。
 腕の中、そこにはラウルの体温がある。
 その事実が妙に心を弾ませた。
 このような幸せな朝には、きっと――二度寝が似合う。
 そう結論して、ドロシーは腕の中の青年が逃げ出さないように、彼を強く抱いて瞳を閉じた。

 

   ▽


 ラウル・シーンスの寝起きは最低最悪であった。
 脳が揺すられる感覚と壮絶な吐き気。彼は二日酔いであった。
 昨日飲み過ぎたのが、今朝になって強烈な打撃となり、ラウルの神経を蝕んでいる。強く意識を持たねば、即喉から込み上げてくる最悪の予感、決壊直前。
 普段から良いとは言えない顔色に、更に磨きが掛かっていて、最早病人というよりも死人というべき青染め方だ。
「は、吐きそうだ……すまねぇ、ドロシー。オレァどうやらここまでのようだ」
「意外と元気じゃないの。でも、良いわ。二日酔いを解消する魔法を歌って上げましょうか?」
「いらねぇ。何でも魔法に頼ってたら、自分が魔法使えない事実に泣きたくなる」
 ラウルは二日酔いでふらつく身体を叱咤し、どうにか立ち上がった。這うようにして洗面台の前に立つと、指を鳴らそうと頑張る。けれども、酔いの所為でどうにも上手くいかない。
 ラウルとて、一応はプロの何でも屋だ。酔いの所為で働けませんでした、などという戯言は、酔っているときの冗談でしか言わない。
 顔を洗い、少し休めば普段通り。
 今は顔を洗う為の水すらまともに用意できないのだが。
 涙目で指を繰り返し擦り合わせるラウルを見かねて、ドロシーが代わりに指を鳴らす。水が勢いよく放射された。
「魔法に頼るのが嫌と言っているけれど、その水も魔法の産物よ?」
 ドロシーの指摘に、ラウルは反論の言葉も出なかった。

 

前回・次回

前回(17話)・次回(19話)

 

反省会

 途中、ドロシーの視点に沿った場面が挿入されました。これは賛否あろうかと思われます。三人称だからあまり気にする必要もないでしょうが、入れるときには注意せねばなりませんね。

 きちんと意図して入れるならば、わたくし的には問題なかろうかと思っています。みなさんはどうなのでしょうか。あえて見えている地雷を踏む必要もないでしょうし、大多数の意見を取り入れたいですね。

 

 では、さようなら。

 

 

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