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亡羊と遊ぶメランコリー――小説家志望・束木志埜のブログ

小説家を目指すわたくしのブログ。色々なことに関心を持ち、できる限りのことをしたく思います。小説・アニメ・漫画等々の感想や日々のこと、創作についても書いていきます。よろしくお願いします!

ネット小説『龍と奏でる英雄譚』20話

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前話(19話)・次話(21話)

 

目次

 

前回のあらすじ

 禁歌を狙っているのはドロシーだけではなかった。たった一つで世界を掌握しかねない歌、禁歌。そして、その禁歌使いよりも危険な存在――罪歌七音。ドロシーたちは、奴らよりも先に禁歌を奪取するべく、行動を開始する。のだが、今回は罪歌七音がどれだけ危険なのかについてのお話。

 

 いよいよこのお話も20話に突入ですね。もうじき第一章が終わり、第二章へと入ることになります。で、一章の終盤には、この物語における敵が出現し、ようやくお話が大きく動いていくことになります。もしよろしければ、お楽しみに。

 では、本編です。

 

 龍と奏でる英雄譚――20話

 

   ▽

 罪歌七音という名を耳にして、ラウルの全身の神経が一斉に逆立った。その反応は劇薬を飲まされた人間を想起させる。
 ラウルも、罪歌七音の存在は何度も耳にしてきた。
 罪歌七音は特殊な十八番を持った、七人の元死刑囚たちの総称である。現在は死刑囚というよりも、賞金首と言った方が正しい。奴らは三年前、協力して脱獄してしまったのだ。
「ざ、罪歌七音が禁歌を狙ってるってのか?」
「そうよ。そもそも罪歌七音は全員、禁歌を手に入れる為に脱獄したらしいもの」
 罪歌七音の悪行は、世界を常に震撼させている。一人で一国を滅ぼす力を持つ者も、奴らの中には平然と存在しているのだ。
 生まれたこと自体が大罪。
 罪歌七音とは、そういう罪人たちの集まりなのだ。
「この国に罪歌七音が来るってのか? 駄目だ、それは絶対に駄目だ」
 ラウルは一度だけ、仕事の関係で罪歌七音の犯行跡を目撃したことがあった。あの惨状は、人が見て良いモノではなかった。
 ラウルの震えを見て、ドロシーは眉を顰めた。だが、すぐに理解を示した。
「その反応……貴方も罪歌七音を見たことがあるようね。その恐がり方からして、貴方が見てしまったのは『謙譲』かしら?」
 言われ、ラウルは――吐いた。
 思い出したくもないことを思い出さされ、ラウルは吐き気を堪えることができなかったのだ。ラウルの脳内では、過去の映像が高速で繰り返されている。
 見えたのは、とある母子の姿だ。二十歳くらいの母親の腹には巨大な風穴が開き、内部から大量の臓物を噴出していた。吐瀉物、排泄物が絶えず垂れ流されていた。だが、それは些事だ。
 本当に恐ろしかったのは、その母親が生きていたこと。いや、あの母親は死んでいたのだろうが、それでもあれは喋り続けていた。ずっと『お母さんは何処?』と、声変わりの訪れていない、幼い声で話し続けていた。
 結果だけ、伝えておこう。
 母親の亡骸――その顔面から子どもの上半身が生えていたのだ。無理矢理押し込まれたのではなく、きちんと結合していた。まるで元から――そういう生き物だったかのように。母親の死体と同化した子ども。母親の腐敗に伴って、生きながら腐っていく身体。……そして、その子どもが自身の状態を知ったときの、あの……
「くっ」
 ラウルは思考を強引に切り離した。
 彼の善良な思考は、あの絶望を心の底から嫌悪していた。それこそ、吐いてしまう程に。
「急ごう」
 ラウルは、口元を衣服の袖で拭うと、言った。
「禁歌を奴らよりも先に、手に入れよう」
「そうするべきね。罪歌七音の十八番には、妾も厄介になりたくないわ」
 十八番。
 十八番というのは、簡単に説明すると、選ばれた人間だけが保有する特殊能力のことである。ラウルやバロックアートの英雄の力も、十八番の一種なのだ。
 魔法が歌や音楽によって発動するのは、誰だって知っている常識だ。そして、十八番というのも、音を介して発動する。
 具体的に、何の音を切っ掛けとして発動するのかというと、それは生命活動音である。人は生きているだけで心臓音が鳴り、呼吸の時にも音が生じる。声の高さは人により違うし、発音だって同じとは限らない。
 そういう小さな音、音を出すタイミングの違いによって発動してしまうのが、十八番なのである。ただ生きているだけで無意識下で発動してしまう魔法なのだ。
「もう、あんなのは見たくないからな」
 罪歌七音よりも早く、禁歌を手に入れる。
 ラウルは、今日見世物小屋を襲撃することに同意した。
 決意を固くし、己を鼓舞する為にラウルは声を上げていた。その所為で、彼はドロシーの呟きを聞き逃してしまっていた。
「罪歌七音……妾のお母様とお父様の――仇」
 ドロシーの声は風に掻き消され、風以外の耳には入らなかった。

 

   ▽



 見世物小屋周辺の賑わいは、王都の中でも抜きん出ていた。庶民だけではなく、中にはちらほらと身なりの良い人も見受けられる。
 ラウルは見世物小屋を冷やかして遊ぶくらいならば、酒場か賭博場の枯れ木となることを好んでいたので、この盛況振りは意外な状況であった。
 人の波に押し流されないように、ラウルはドロシーの手を握りながら、
「オレ、それどころじゃないのは知ってるけど、ちょっと興味出てきたんだが。見世物小屋って、結局何を見せてくれるんだ?」
「妾が知ってる出し物だと、可愛らしい女の子の口をナイフで裂いて、それを口裂け――」
「もういい。何だよ、こいつら。そんなんを見て何が楽しいんだよ……」
「生まれつきそういう体質だった人を雇ったりもするそうよ。あまり、良い趣味だとは言えないけれど、今の世の中でそういう人たちが生きていく為の方法としている面もあるから、妾には何も言えないわ」
 それ以外にも、猛獣に芸をさせたりもするらしい。
 ラウルは少々顔を顰めつつ、
「そんなんで人が集まるもんなんだな。猛獣に芸をさせるのなんて、オレでもできるぞ?」
「普通はできないわよ。貴方はできるのでしょうけれど」
 ラウルはチラリと、見世物小屋を覗った。
 それは天高く伸びる布の連なりである。無数の、布製の即席建造物が幾重にも連なっている。布には奇抜な絵柄が刺繍されており、見世物小屋が持つ独特の雰囲気を禍々しく変えていた。
 ラウルには悪趣味に見えてしまうこの建物も、見世物小屋を楽しみにしてきた者には愉快な拘りにでも見えているのだろう。
「こんだけ人目があると、目的を果たすのは難しいかもしれないな」
「でも、これだけ人がいれば派手な戦闘には成り辛いわ。相手は人気商売の見世物小屋よ。追い詰められるまで、下手なことはしないわ」
「悪役の発想だな、おい」
 と、ラウルたちが襲撃について話し合っていると、前方から見知った顔がやって来た。
「おやおや、ラウルくん。今日は酒で溺死していないのかい?」
 バロックアートだった。

 

前回・次回

 前話(19話)・次話(21話)

 

反省会

 今回の反省点ですが、作中、ラウルが吐いたシーンを挙げたいですね。簡単に言いますと、やり過ぎましたし、唐突過ぎました。書いていたときは、唐突に吐いてしまうほどに醜悪な現象を見せられたと解って貰える……と考えていたのですが、ちょっと想定と異なっているようです。数ヶ月おいて見直してみて、わたくしはつい笑ってしまいました。

 あと、今回紹介された罪歌七音の『謙譲』ですが、なんと、このお話には登場しません。こういうのって新人賞ではマイナスポイントだと聞き及んでおります。続編があれば活かせる設定ですが、新人賞ってそういうことを考えて作るものではありませんからね。これは明確なミスです。

 どうせでしたら、この後に登場する方の罪歌七音の悪行について述べておくべきでした。それに、よくよく考えると『謙譲』の能力って解りづらいですし……(一応、全禁歌と罪歌七音の設定、残りの英雄の設定も考えているのです。楽しかったので、つい)。

 

 本日はこのくらいにしておきます。では、さようなら。

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