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亡羊と遊ぶメランコリー――小説家志望・束木志埜のブログ

小説家を目指すわたくしのブログ。色々なことに関心を持ち、できる限りのことをしたく思います。小説・アニメ・漫画等々の感想や日々のこと、創作についても書いていきます。よろしくお願いします!

ネット小説『龍と奏でる英雄譚』21話

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前回(20話)・次回(22話)

 

目次

 

前回のあらすじ

 禁歌を狙っているのが悪名高い罪歌七音であると知ったラウルは、軽快の念を強めることとなる。一刻も早く禁歌を奪取せねば、という使命感を得たのも束の間、彼らは剣の英雄バロックアート・クローバーと遭遇してしまう。

 ラウルのことが大嫌いで、何かしら理由を付けては殺そうとしてくるバロックアートとの出会いは、もちろん、良いモノにはならず……

 

 では、本編です。

 

龍と奏でる英雄譚――21話

「おやおや、ラウルくん。今日は酒で溺死していないのかい?」
 バロックアートだった。
 バロックアートは、ベールディアを含めた五人組を引き連れ、優雅にこちらへと手を振っている。それは友好の証ではなく、ラウルを威圧することを目的とした行為なのであろう。
バロックアート……何でこんな趣味の悪い場所に……」
「その台詞、昨日も聞いたよ。ボクが何処にいようと、ボクの自由じゃあないのかな?」
「それは……そうだが」
「でも、キミの懸念もわかろうものさ。ボクのような気高い、気品に満ちた英雄が見世物小屋を冷やかすなんてあり得ない。今回の目的は別さ」
 バロックアートは大仰に両手を広げ、嬉しそうにラウルに語った。
「そろそろボクも白馬には乗り飽きてしまってね。だから、この見世物小屋にいる珍しい生き物の中から、ボクに相応しい生き物を買おうと思ったのだよ」
「珍しい生き物? そんなのがいるのか?」
「ラウルくん、キミはそんなことも知らないのかい? 知らずここに来たのだとしたら、実に愚かな選択をしたものだね。英雄としての自覚が足りないことこの上ない」
 バロックアートは芝居がかった溜息を漏らし、微かに自身の剣を撫でた。力こそ使わなかったが、今の動作に殺意があった場合、ラウルは今瀕死状態だったかもしれない。
 人混みの中、流石のバロックアートも遠慮したのか、剣から手を離す。
「ふ、まあいいさ。ここの生き物はどのみち、キミには不釣り合いだよ。この見世物小屋には、誰も見たことがなかったらしい生き物で溢れているという。神獣の類いだね。伝説のドラゴンは流石にいないだろうけれど、それでもボクが乗るに相応しい子が、きっといるに違いないよ」
 バロックアートは上品に笑んでみせると、そのまま歩き出そうとした。しかし、ドロシーの姿に気が付き、足を止めていた。
「おや、昨夜のお嬢さんではないですか? どうしてここに?」
 問われて、けれどもドロシーはバロックアートの存在に気付かない。ただ静かに、握っているラウルの手の感触を楽しんでいるだけだった。
 そのことに苛立ち、バロックアートの語調が鋭くなる。
「ボクの誘いを断って、まさかラウルに付いた、なんて言わないでおくれよ?」
 明確に声を掛けられ、ドロシーは遅れてバロックアートの存在に気が付いた。
「妾は嘘はあまり吐かないの。だから言うけれど、ラウルくんを雇ったわ」
「……そんな出来損ないの英雄よりも、ボクの方が優秀だと思われますが?」
「そうかしら? 妾には、ラウルくんの方が良いように見えるわ」
「随分な節穴だ! ボクがラウルよりも劣っている? 何処がだ!」
 歯を剥き出しにして、バロックアートは怒声を上げた。怒りを抑えきれなかったのか、奴は既に剣まで抜き放っていた。宝石のように煌びやかな長剣が、ラウルの瞳に入ってきた。
 バロックアートは剣を天へと翳し、腹の底からの声を掻き立てる。
「不敬にも程があるぞ、この淫乱女が! どうせ、ラウルに抱かれて喜んでいるだけの、快楽で頭を満たした娼婦なんだろう! ふざけるなよ、このボクを。英雄であるこのボクを、馬鹿にするのも限度があるぞ!」
 言い放ち、バロックアートが剣が振り下ろそうとした。
 バロックアートの剣は光の粒子で覆われている。あれは剣の英雄が持つ権能の一つ。あの光の粒子は、一粒一粒が剣と同等の切断力を持っている。
 射程を伸ばす、力である。
 ラウルは仰天に目を露出させた。殲滅の為の権能を人が密集しているこの場所で使えばどうなるのか。答えは誰にだってわかる筈だ。
 ラウルは腰の短剣を抜き、全力で踏み込んだ。その時だ。
「お止めください、バロックアート様」
 ラウルもよく知る声。ベールディアの鈴の音のように澄んだ声が、周囲に広がった。彼女は堂々とした足取りでバロックアートの前に立つと、静かにバロックアートを抱き締めた。
「離せ、汚らわしい妖人が。ボクに触れて良いと、誰が言った? 貴様ごと切り裂くぞ」
バロックアート様の剣に斬っていただけるのは、ルディーにとってはこの上ない名誉です。どうぞ、お斬りください。ですが、バロックアート様が斬っても良いのは、この場ではルディーだけです。あのような者たち、バロックアート様の剣に掛かる価値もない」
 ベールディアの忠誠を聞き、バロックアートは大きく息を吐き出した。苛立ちに任せて剣を鞘に収めると、無言で歩き出した。ラウルと擦れ違った瞬間だけ、その瞳を激情に塗り潰す。
 少しの間の直後、ベールディアを含めた五人がバロックアートの後を追った。
「悪い、助かった」
 と、ラウルは思わず、ベールディアに声を掛けていた。すると、彼女は意外なことに足を止めた。冷たい、人形のような瞳でラウルを見下す。彼女は赤縁眼鏡の位置を調整して、
バロックアート様の剣が汚れるのを防いだだけです。駄作、あまり調子に乗らないでください。お前の所為で、バロックアート様の英雄譚に傷が付くところでした」
「ああ、確かに。あいつが一般人を斬ったら、洒落じゃすまねぇもんな」
 ベールディアは深刻そうに一度頷くと、ラウルに背を向けて走り去ってしまった。

 

   ▽

 ラウルたちは人々に紛れて見世物小屋内に侵入を果たしていた。先ほどのバロックアートたちとの遭遇は、これから行う筈の隠密行動の足を引っ張っていた。
 見世物小屋の支配人らしき人物の先導に合わせ、観客たちはゆっくりと歩いている。その中に、ラウルもドロシーも紛れている。
 囁くような声音で、ラウルは感想を述べた。
「ここすげえな。バロックアートの言ってた通り、見たこともない動物でいっぱいだ。さっきの生きる鉄塊見たか?」
「そうね。あり得ないような生き物で溢れているわね」
見世物小屋ってオレ、良い印象持ってなかったが払拭されちまったよ」
 ラウルは純粋に見世物小屋を楽しみつつあった。それでも、任務のことは忘れてはいない。機を見て、この集団からコッソリと抜け出さなくてはならないのだ。
 それから五分程、ラウルたちは集団に付いて回り、様々な生き物を目にした。長い耳を生やした大蛇であったり、紙のように薄っぺらい肉食動物だったり、胃袋のような姿の何かであったりと、実に種類は豊富であった。
 しばらく奇妙な動物が続いたのだが、ある時から一変した。
 奇妙な生き物は終わり、美しい動物が現れ始めたのだ。
 その動物は四足歩行。鱗の全てがまるでステンドグラスのように、芸術的な文様と光を持っている。蛇のような肉体を持つが、そこには蛇特有の厭らしさのようなモノは見受けられない。どころか、神々しい雰囲気すら感ぜられる。
 皆が、見世物小屋の支配人すらもが見とれている最中、ラウルはドロシーの手を引いて集団から抜け出した。
 感動の余韻をやや残したまま、ラウルは駆ける。周囲に気を配り、足音を消しながら見世物小屋を駆け抜ける。ドロシーが足音を出してしまっているので、後者の隠密行動は意味を成していないのだが、これはラウルの何でも屋としての隠密行動時の職業病であった。
「で、ドロシー。禁歌の位置はわかっているのか?」

 

前回・次回

 前回(20話)・次回(22話)

 

 

反省会

 さて、今回はバロックアートの因縁の付け方について、です。一応、物語の中盤でバロックアートがここまで激怒しやすい理由(バロックアートが持つコンプレックス)が判明するのですが、人によっては理解できない理由かと思われます。何故ならば、説明を一切しないから。

 ただし、ある程度物語に触れたことのある方は、きちんと察してくれるかな、とわたくしは想定しておりました。が、こういう構成ってあまり良くないのでしょうか。

 既存の情報から組み合わせると真相はすぐにわかるのだけれど、まったく作中で詳しく説明しない、というのはありです。けれど、登場人物の(それもある意味のサブキャラの)心理状況をそれに委ねるのは問題なのでしょうか。

 クローバー家が名家であるという事実と、バロックアートが隠していた事実に鑑みると、どうしてバロックアートがあそこまでラウルを邪険に扱うのかの一旦は見えるかな、と想定しております。もしも難しければ、それはわたくしのミスですね。

 今回のことは、反省であるとばっさり切るのはちょっと難しいところでしょうか。それとも、急だと読者さんに思われてしまった時点でアウトなのでしょうか。

 ちょっと独力では解りがたいですね。

 

 

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