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亡羊と遊ぶメランコリー――小説家志望・束木志埜のブログ

小説家を目指すわたくしのブログ。色々なことに関心を持ち、できる限りのことをしたく思います。小説・アニメ・漫画等々の感想や日々のこと、創作についても書いていきます。よろしくお願いします!

ネット小説『龍と奏でる英雄譚』24話

龍と奏でる英雄譚
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前回(23話)・次回(25話)

 

目次

 

前回までのあらすじ

 音楽国家フーテ。そこに未曾有の事件が発生する。それは即ち――停電。本来、このフーテには生活魔法を日々奏で続けるオーケストラという組織が存在している。停電が起きたということは、そのオーケストラに大事があったということに他ならない。

 ラウルは焦燥の末、とある愚行を犯してしまう……というお話。

 次回、いよいよ罪歌七音の一翼が登場します。

 

 では、本編です。

 

 龍と奏でる英雄譚――24話

「何者かに、襲撃されたのかもしれないわ」
 ドロシーの言いたいことは、ラウルに十二分に伝わった。つまり、オーケストラでも対応できない何かが、襲撃してきたのかもしれない、と。
 ラウルは慌てながら、
「さっさと禁歌を回収しよう。オレはオーケストラの元へ行く。まだ、間に合うかもしれない」
「妾の言いたいことが理解できなかったのかしら? 敵は罪歌七音かもしれない。だから、先に禁歌を入手するのは当然。でも、自分から罪歌七音の元に向かうなんて駄目よ」
 ドロシーは暗に、逃げようと、ラウルにそう言ったのだ。けれども、ラウルは首を左右に振るった。
「オレには何もできねえかもしれねえ。でも、行かなくちゃなんねえ」
「どうして……貴方は」
 きっと、ドロシーにはラウルの言動が矛盾しているように見えているのだろう。
 ラウルは普段、現実主義者のように振る舞っている。そこに生来の気弱さも加わって、彼はいざという場合逃げ出すような性格と勘違いされる。
 そこは大きく外れていないのだが、彼には母親からの教えがあった。『自分がされて嬉しいことだけを、他の人にはしなさい』という、何気ない、呪いの言葉があるのだ。
 故に、ラウルは逃げない。いや、逃げられない。
 誰かが困っているとき。誰かが救いを求めているとき。誰かが危険なとき。
 彼はそれがどれ程恐ろしかろうが、立ち向かう以外の選択肢を有していないのだ。
 それは、酒場のときのラウルの言動を思い出せばよくわかるだろう。ラウルは柄にもなく、ナンパされていたドロシーの為に声を上げていたのだから。
 ラウルの真剣な眼差しを受け、ドロシーは言葉に困った。そして、言い訳のように――言ってしまったのだ。
「ラウルくん、貴方が罪歌七音に立ち向かうのは危険だわ。貴方が行くくらいなら……妾が行くべきよ」
 ドロシーの忠告は正しかった。また、彼女が行くべきだという判断も、正しさを極めていた。彼女には、一片の曇りもない正しさだけがあった。
 ラウルも、彼女の意見には全面的に賛成だ。
 ラウル・シーンスは強くない。弱くはないのだが、決して強くはない。英雄の力は扱えず、かといって魔法が使える訳でもない。努力によって手に入れた実力は、一般人を超えていても超人の部類には入らない。
 彼が行って事態が好転するなんて希望を持つのは、ラウルの思い上がりだ。
 魔法を自在に使いこなせるドロシーが行くべきだということも、ラウルには十分に理解できている。
 それでも、ラウルの考えは覆らない。どころか。
「何をするつもりかしら?」
 ラウルはふわふわの背に乗り込むと、問うて来たドロシーに笑いかけた。
「行ってくる。あんたは禁歌を手に入れて、隠れていてくれ。鍵を開けなくても、鉄の壁を壊せばどうにでもなる。あんたが言ってた、あんたの本業が回復じゃないってのが本当なら、これくらいの壁は壊せるだろうよ」
 ドロシーが行った方が良いことなんてわかっている。だが、もう一つわかりきっていることもあった。それは、ドロシーを行かせるということは、彼女を危険に晒すも同然だということ。
 ラウルは彼女に感謝していた。 
 ラウルがトラウマとしていた過去に、真っ向から向き合ってくれた。ずっと欲しかった、誰かからの温もりを与えてくれた。優しい声を掛けてくれた。
 たったそれだけのこと。
 しかし、ラウルの心を癒やすのには、それだけのことが必要だったのだ。
 ラウルにとってドロシーは恩人だ。恩人を、死地へ送ることなどできよう筈もない。特に、あの悍ましい罪歌七音と対峙させることなど考えるだに震えが止まらない。
 ラウルはふわふわの腹に軽く足を入れ、初歩を踏ませた。ふわふわの速度はラウルの想像を遙かに超え、刹那の内にドロシーの姿を遠ざけた。
「待ちなさい!」
 ドロシーの澄んだ、よく響く声が、ラウルの耳に届く。
「待ちなさい! 待って、ねえ! ……待って、ラウルくん!」
 背でドロシーの声を受け止めながら、ラウルはただ速度に乗った。ふわふわが風を引き裂き、目にも止まらぬ速さで地を走破していく。
 ラウルは、この時、完全に母親からの言いつけを忘却していた。
 ラウルはドロシーを罪歌七音の元に行かせたくなかった。ドロシーもまた、ラウルを罪歌七音の元へ行かせまいとしていた。
 だというのに、ラウルはドロシーを置いて、一人で罪歌七音の元へ向かっている。自分が絶対にされたくない、置いて行かれるという行為を、彼はドロシーにしているのだ。
 ラウルはそのことには気付かず、ただふわふわの速度を上げていた。

 

   ▽

 王都は混乱のただ中にあった。

 

次回・前回

前回(23話)・次回(25話)

 

反省会

 ラウルの行動原理は、すべて母親の『自分がされて嬉しいことだけを、他の人にはしなさい』に拘束されています。ですから、彼の行動が不自然だとは、わたくしは思いません。ただし、それはあくまで作者であるわたくしの意見です。

 みなさんはどう感じましたか?

 不自然だとか、唐突だとか、思われましたか? だとすると、それはわたくしの実力不足に起因しております。申し訳ありません。

 

 さて、もう一つ問題点があるのですが、それは次回で言及したく思います。

 

 

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次回・前回

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