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亡羊と遊ぶメランコリー――小説家志望・束木志埜のブログ

小説家を目指すわたくしのブログ。色々なことに関心を持ち、できる限りのことをしたく思います。小説・アニメ・漫画等々の感想や日々のこと、創作についても書いていきます。よろしくお願いします!

ネット小説『龍と奏でる英雄譚』25話

龍と奏でる英雄譚
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前回(24話)・次回(26話)

 

目次

 

前回のあらすじ

 ドロシーを置いて、単身オーケストラの元へと急ぐラウル。それは、自身がずっと求めていた温もりと優しさを捨てる行為と同義であると彼は気付かず、ただ、母親の呪いの言葉を胸に、彼は王都を駆け抜けていく。

 その先にある、悪夢を知らずに……

 という感じのお話です。

 では、本編へまいりましょう!!

 

 龍と奏でる英雄譚――25話

 王都は混乱のただ中にあった。
 停電などという、多くの者が経験はおろか想像もしたことのない事態に、どう対処して良いのかわかっていないのだ。
 中には動揺を抑え、理性的に停電に対処している者もいる。しかし、彼らは奏唱を自ら行い、自身の範囲を普段通りにすることで精一杯で、オーケストラの危機だとは気付いていない。
 それで良い、とラウルは安心する。
 商店通りをふわふわの足が踏みつけていく。ラウルの漆黒の髪が、風に煽られてはためく。
 通りを越え、ラウルはオーケストラたちが集まる教会に辿り着いた。
 ふわふわの上から飛び降り、すり寄ってくる彼女の鼻頭を乱雑に撫で付ける。
「あんたはここで待っててくれ。てか、連れ出して悪いな」
 ラウルは短剣を何時でも抜けるような状態にして、ゆっくりと教会へと近寄った。
 音は……聞こえない。オーケストラたちの歌声も、楽器の演奏も、何も聞こえない。重苦しい静寂のみが、この場を支配していた。
 ラウルは自身の鼓動が早まっていることに気が付いた。
 今は、心臓の音一つでも、耳に触る。
 白を基調とした石造りの建造物。普段は神聖を帯びた、厳かな雰囲気に包まれた場所だ。だが、今はその様相が正反対に映った。
 禍々しい、悪魔の潜む根城のように、ラウルの目には見えて仕方が無い。
 露骨な恐怖を、彼は強制的に作った笑みで噛み殺す。
 それに、まだ杞憂である可能性も高いのだ。これだけ緊張しておいて、実は何もありませんでした、ということもあり得る。あり得て欲しい。
 ラウルは気付けば、扉の前に立っていた。
「……よし」
 本来ならば、声を出して良い場面ではない。それでも、声を出さずにはいられなかった。
 意を決して、ラウルはそっと扉を開く。古びた扉は、硬質な音を立てながら、ゆっくりと内部の状況をラウルに見せつけた。
 そこにあったのは――肉片だった。

 

   ▽

 

 ラウルは心臓が爆発したかのような衝撃を得ていた。
 目に映るのは、見渡す限りの肉と肉。血と血に、塵屑のように散乱した――死体の山。
 天井に吊されている死体がある。楽器に潰されている死体がある。何度も何度も、床に叩き付けられたのであろう、見るに堪えない死体がある。
 幾つもの死体が重なり合い、巨大な団子になっている。
 壁は血文字で満たされて。その血文字はすべてが罵詈雑言。
 赤黒い世界が広がっている。
 その中で、
「んー、んんー、んーんーんんー」
心地良さそうに、鼻歌を奏でる男がいた。
 男の独演会は続く。
「あぁ、やはり歌は素晴らしいですね。特に、わたくしの奏でる歌の、何たる可憐さ、愛おしさ! この世の美の集大成にして完成形! きれいです、きれいです、きれーいですぅ! わたくしの歌声はどうしてこうまで美しいのでしょうか。このような惨劇すらも、わたくしの歌声は芸術に変える。素晴らしい舞台をありがとうございます! そして、貴君らもわたくしの歌に感謝を捧ぐと良い! わたくしが感謝をしてやったのは、わたくしの心の美しさが為した美徳でございます。されど、貴君らがわたくしの美声を彩る有象無象たり得たのは、我が美声の為せる業! ほら、感謝を述べてください、さんはい」
 男は一人で盛り上がり、嬉しそうに近くにあった死体の口に指を突き入れる。そうすると、強引に死体の口を指で動かした。
『ありがとうございましゅ!』
 男は裏声で言い、死体の口を台詞に合わせて動かした。
 その悍ましい行いに、ラウルの肝はサッと凍えてしまう。死体を死体として扱わず、まるでお人形遊びのように繰る、その悪行。流れ出る血液を、忌々しげに服で拭うその所行。
 ラウルは断ずる。
 目の前の男を見逃すことは大罪である、と。故に、彼が短剣を抜き去るのは一瞬だった。
「いやあ、わたくしはどうやら裏声まで美しいようでございますね。美声に心が蕩けました。この感動! 伝えなくてはでございますね。さあ、歌います! お聴きなさい!」
 男はラウルには一切気が付かない。自身の声に陶酔しきり、心の底を源泉として沸き立つ歓喜に打ち震えるばかりだ。
  〈宵闇 暗き道に君一人
   孤独の国の住人は 君一人
   さぁ召し上がれ 母の血と肉を
   さぁ召し上がれ 妹の肉体を
   晩餐 晩餐 裏切りの〉
 男の歌は、神経に蛆が這ったかのような、実に気味の悪いモノであった。不協和音を体現したかのような、聴く者を不安定にする歌声であった。
 しかし、ラウルはただ走る。目の前の異常者に、真っ向から対峙してはいけない。
 本能がそう囁く。
 教会の石造りの床を足音もなく――征く。
 敵に視認されないように、ラウルは敵の死角を駆け抜ける。大きく迂回して、カーブを描き、獲物を狩りに行く軌道だ。
 教会内を疾風が迸る。ラウルの疾走は風と評するに相応しい。
 無数に並ぶ椅子を蹴り、最後には壁を蹴り抜く。飛ぶように跳躍。
 一瞬で男の背後を取ると、飛び込むようにして短剣を振り被る。踏み込み、上半身が真っ先に目標地点に辿り着く。数瞬遅れて、短剣を掴む手が来た。
 空気抵抗を力でねじ切る、ただ速さのみを求めた――斬撃。
「仕留めた!」
 狙い違わず。ラウルの短剣は男の首を両断していた。赤い血液が雨の如く降り注ぐ。
 勢い収まらず、ラウルは男の傍らを通り過ぎる。だが、敵を仕留めた以上、振り向く必要など無い。手応えはあったのだ。
 ラウルは弱い。けれども、それはあくまで人外を含めた評価だ。英雄の十八番を考慮に入れた実力だ。
 彼の努力で得た実力は、こと奇襲に関して言えば、ある種の到達点と評して良いモノである。ラウルと同年代の一般人が死ぬ気で努力して、実力で手に入れられる、最大限の実力だ。
 全身運動により、身体は血に濡れるまでもなく、雨に降られたかのように汗に濡れていた。肩で息をしながら、ラウルは自身の功績を振り返ることにした。
 と。
「まったく、なっちゃあいないですねぇ」
 ラウルの前方には、平然と、無傷で、まったくの動揺もなく、ただ滑稽なつまらない者を観たような冷めた目で、肩を竦める男がいた。
 男の口角が異様な程に釣り上がり、凄惨の笑みを形作った。
「初めまして、でございますね。わたくしの名は――ミュゼル・オーケストラ。どうぞ、ご贔屓に」
 男――ミュゼルは嬉しそうに一礼した。下を向いているというのに、彼の釣り上がった口元が見えるのが不気味で仕方が無い。
 ミュゼルは弾かれたように顔を振り上げると、
「言い忘れておりましたが、わたくしこれでも罪歌七音……『忠誠』にございます」
「くっ……この!」
 自身の胸に手を当て、恥ずかしげに頬を染めて見せたミュゼル。その言動のあやふやさに耐え切れず、ラウルは短剣を一閃した。
 刃は吸い込まれるようにミュゼルの首を切断した……が。

 

前回・次回

 前回(24話)・次回(26話)

 

反省会

 個人的にはですが、今回のお話は気に入っております。ミュゼルというキャラもそこそこに書けましたし、戦闘もまあ悪くはないかな、と感じております。もちろん、この段階で妥協する、というわけではございませんよ。

 一つ反省があるとするなら、それはやはりミュゼルの登場の遅さですかね。彼は、この物語の一巻部分における敵です。打破すべき障害です。

 基本、このお話はミュゼルとの抗争を軸に進んでいくのですが、その軸である彼の登場があまりにも遅すぎる気がします。

 現時点では、文庫本換算で百ページ目くらいです。百ページまで明確な敵が登場しないというのは、少しだけ問題かもしれません。当然、敵が登場しなくても面白く書けていれば問題はないのですが……

 次回作では、敵の登場などなど、よく計算してプロットを作らねばならないようですね。

 

 あと、わたくしは自身のことをわたくしと呼びますが、ミュゼルとの関わりは一切ございませんことを、ここに明らかにしておきます。以上。

 

 

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