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亡羊と遊ぶメランコリー――小説家志望・束木志埜のブログ

小説家を目指すわたくしのブログ。色々なことに関心を持ち、できる限りのことをしたく思います。小説・アニメ・漫画等々の感想や日々のこと、創作についても書いていきます。よろしくお願いします!

ネット小説『龍と奏でる英雄譚』26話

龍と奏でる英雄譚
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前回(25話)・次回(27話)

 

目次

 

前回までのあらすじ

 罪歌七音――ミュゼル・オーケストラと対峙するのは、無の英雄ラウル・シーンス。彼の先制攻撃が炸裂するが、罪歌七音はまったく動じた様子がなかった。

 首を切断しても、敵はすぐに立ち上がる。どころか、その身に秘められた狂気がどんどん露出してくる始末。

 謎の権能を有したミュゼルに対し、ラウルはどのように立ち向かうのだろうか……というお話です。

 ちなみに、作者の名前は束木志埜です。覚えてくだされば幸い。

 ということで、本編です。

 

 龍と奏でる英雄譚――26話

 刃は吸い込まれるようにミュゼルの首を切断した……が。
「……今、わたくしが声を上げていたでしょう? 貴君の腐ったような耳の為に、わたくし自らが声を掛けていたでしょう! それなのに、貴君は声を遮った!? 許されざる、歌への反逆行為でございますよ! 大人しく歌をお聴きなさい!」
 ミュゼルは斬られたことではなく、自身の声を遮られたことに対して怒りを露わにしていた。頭を抱え、奇声を発し続ける。
「鑑賞態度がまったく以てなっちゃあいないですねえええ!」
 絶叫すると、ミュゼルはホッと一つ息を吐いた。そして、急に真面目な表情を作ると、
「この怒り、絶望。我が思考が輝きました。さぁ、お聴きなさい! 作詞作曲・ミュゼル・オーケストラ」
  〈骨壺の悲鳴 誰も聞こえず
   朽ち行く 命 輝き 美しさ
   骨の汚れなきあの美麗
   薄っぺらい 薄っぺらい その
   感情 気持ちに あの哀切〉
 ミュゼルの歌は実に……歪であった。正しく歌うことを敢えて拒んでいるかのような、人の神経を汚すことだけに身命を賭した歌声。
 ミュゼルは嬉しそうに、楽器を奏でる。彼が奏でるのは、戦闘用楽器――ロイヤル・ガーデンだ。巨大な大剣、その内部に鈴が設置されていて、一太刀毎に鈴音が生じる。そのロイヤル・ガーデンで伴奏を作り、ミュゼルはただ歌う。
 奏唱ではない。何故ならば、ミュゼルの周囲には譜面が浮かんでいないからだ。
 戦闘中だというのに、ミュゼルは奏唱以外の歌を歌っている。何もかもが、ラウルの理解の外にあった。
 ラウルは改めて、ミュゼルを観察する。
 金の長髪はきちんと整えられていて、まったくの不潔さがない。片目にはモノクル、だがそれが嫌味にならない程度に、顔は整っている。
 豪奢な燕尾服を身に纏い、装飾の鎖が澄んだ音を立てる。
 美青年、とそう言っても良い容姿をしていた。全身が返り血塗れで、着ている服に一日二日では付かない深い血のシミがあることを度外視すれば、ではあるが。
 最悪の意味での音楽家。
 ラウルの目には、ミュゼルはそう映った。
 やがて、ミュゼルが歌い終わる。その最中、ラウルは何もできなかった。
 眼前の異常に関わることを、無意識下で拒絶していたのだ。
 歌い終わると、ミュゼルは誇らしげに手を振り上げた。
「どうでしたか、わたくしの歌は。感動してしまったでしょう? 素敵でしょう? 美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい! 猫の死体の如く可憐で、拷問された妹の如く煌びやかで、強姦された恋人のように愛おしい。そうは思いませんか、貴君」
「……あんたの価値観なんて、微塵も理解出来ねえよ」
「貴君も、ですか。貴君も、耳を持たない、嘆かわしい塵屑ですか! 音楽を知らない、知識のない猿。ああ、哀れ。しかし、大丈夫でございますよ。わたくしが慈悲を差し上げます。もちろん、わたくしが担当するのは『忠誠』であって『慈悲』ではありませんがね」
 ラウルはその場から飛び退き、しっかりと短剣を構えた。
 一方のミュゼルは、ロイヤル・ガーデンをオモチャのように握るだけだ。
「この死体たち。見てください。貴君と同じ無知なんですよ。音楽を知らないんですよ。だからこそ、面の皮が厚いことにわたくしの名であるオーケストラを名乗れるのでございますよ」
「まさか、その程度の理由であんたはオーケストラを壊滅させたのか?」
「オーケストラ? 訂正なさい。これらの死体は塵でございます。オーケストラを名乗って良いのは、このわたくしただ一人だけ」
 そこで、ようやくミュゼルが殺意を放出した。直後、ラウルの腸を大剣――ロイヤル・ガーデンが貫いていた。
 大量の血液が、ラウルの口内から噴出した。意識が一気に消えかける。
 残った気力で、ラウルは短剣を投げつけた。それは見事、ミュゼルの顔面に突き刺さるが、
「さあ、訂正なさい。訂正なさい訂正なさい。わたくしの歌が至高なのだと、そう発言なさい。わたくしが負けるなどあり得ない。わたくしの十八番の権能がそれを許容しない。さぁ、仰いなさいな、早く速く!」
 ミュゼルは残酷に、表情を歪めた。それだけだ。
「貴君、口を少々動かすだけでございます。事実を認めるだけ。さあ、選びなさい。わたくしを賛美する名誉に死ぬか、それとも芸術を最期まで理解せず逝くのか」
 どちらが幸せか解りますよねえ、とミュゼルは自身への賛美を確信して笑った。だからラウルは、最期の足掻きとして、ミュゼルへと唾を吐きかけた。
 ラウルの唾液が、ミュゼルの整った鼻筋を伝っていく。
「殺しますね、ええ殺します」
 感情の失せた瞳で、ミュゼルがゆっくりと大剣を引き抜いていく。ラウルの生命の灯火も、大剣が引き抜かれるのに合わせて失せていく。
 やがて、大剣が完全に抜かれた。ロイヤル・ガーデンとラウルの腸の間に、血の糸が引いた。
 ミュゼルはロイヤル・ガーデンを軽く振る。
 ラウルの頭部が易々と粉砕される――寸前。少女の澄んだ、美しい怒声が響いた。
「そこまでよ、罪歌七音」
 声の直後、教会が――吹き飛んだ。

 

   ▽

 

前回・次回

前回(25話)・次回(27話)

 

 

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