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亡羊と遊ぶメランコリー――小説家志望・束木志埜のブログ

小説家を目指すわたくしのブログ。色々なことに関心を持ち、できる限りのことをしたく思います。小説・アニメ・漫画等々の感想や日々のこと、創作についても書いていきます。よろしくお願いします!

ネット小説『龍と奏でる英雄譚』30話

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前回(29話)・次回(31話)

 

目次

 

前回までのあらすじ

 民たちのために、偽装の処刑に掛けられることを快諾したラウル。しかし、その処刑には少々の問題があって……

 というお話。

 では、本編へ。

 龍と奏でる英雄譚――30話

「オレなんかにできることとしちゃあ、上等な部類の役目だよ」
 ラウルは処刑を了承した。だが、まだ話し合うべきことはある。
「クルス。悪いがオレにはアリバイがありやがる。その辺はどう誤魔化すつもりだ?」
 ラウルは先ほどから、尊い身分であるクルスに敬語を用いていない。最初こそ敬語だったが、彼は既に生きようと考えていない。不敬で斬られても、文句はないのだ。
 クルスは顎に手を当て、熟考の構えを見せた。探るように口を開く。
「貴方が教会に向かったのは停電後。つまり、オーケストラ壊滅後、でしたね。商店通りを目立つ形で進んだので、貴方の姿は多くの方に見られています」
「あの時はまだオーケストラが生きていたってのはどうだ? オレが何らかの工作をして、オーケストラが動きを止めた隙に襲った、と」
「それで行きましょうか。幸い、教会が爆破されたのは貴方の到着後でしたからね。となると、残る問題は教会から離れてしまったミュゼルと女性についてですね」
 目撃者がいなかった、と考えるのは希望的観測である。彼らのことについてもそれらしい理由を付けねば、後々違和感に気付く者が出てくるだろう。
 ラウルは言い淀みつつも、案を出した。
「ドロシー……女の方をオレの共犯にしておけよ。どうせ、無の英雄が単独でオーケストラを相手取れるとは思わねえだろ、誰も。で、ミュゼルはあんたんとこの人間ということにすれば良い」
 ミュゼルの身なりは良かった。聖歌隊が騎士甲冑を身に付ける暇も無く交戦したと言い張ればどうにかなるだろう。
 ドロシーは人外の肉体を持っていた。彼女が聖歌隊の一員だとするのは難しい。それならばいっそ、敵だと思わせれば良い。後は、相打ちということにすれば、問題ない筈だ。
生きているミュゼルが町中を歩いたとしても、見間違いに気の所為で押し通す。
 ドロシーにだけ罪を押し付けるのは、ラウルの心が許容しない。それに、民は罪人に明確な罰が下るところを見なければ心の整理ができないだろう。ラウルが処刑される意味はある。
 ラウルの処刑案を聴いたクルスは、けれども震える声で諫めた。
「ラウル様、貴方は協力的過ぎます。貴方の処刑ですよ? それに、あの女性は貴方の大切な方なのでは……」
「もう……良いんだ。オレはドロシーを置いて来ちまった。全部あいつに任せちまった。今更、オレがあいつを大切だなんて、言える訳がねえ」
「意気地なし、ですね。勝手に諦めないでください。処刑と言っても、民に石を投げさせるモノにするつもりです。防衛の魔法も掛けますし、終われば回復もさせます。貴方は死ぬふりをすれば良いだけだ。顔は変えていただきますが……」
 クルスは、ラウルを本当に殺すつもりはないようだった。見せかけの処刑を行い、民を騙すつもりなのだ。
 ラウルには理解出来ない。偽りの処刑を行えば、それが露見するリスクが付いてくる。そこまでして自身を生かす意味が、どうしても理解出来ないのだ。
 不思議そうにしているラウルに、クルスは怒気も露わに告げた。
「命を軽んずるな。貴方の命は、あの場で助からなかった者が欲した命だ。何よりも、貴方が守ろうとした命だ。それの価値を否定するのは――侮辱だ」
「……だが、オレァ無の」
「言い訳だ。僕にはわかる。貴方には力が無い。貴方は弱い。貴方が何かをして、事態が好転することなんて希でしょう」
 クルスの言葉は厳しいモノだ。彼は自身の感情を制御できず、鉄格子を硬く握り閉めている。鉄格子がクルスの膂力に敗北し、音も立てずに折れ曲がった。
「しかし、僕にはわかる。貴方は事態を好転させようとする意思があり、それによって救われる人もいる筈だ。言い訳は無駄です。貴方を見れば一目でわかる。筋肉の鍛え方、視線の飛ばし方、呼吸の方法。どれを取っても、貴方には強くなろうとした意志が見える」
 クルスは言い切り、そっと息を吐き出した。直後、顔色を一変させて、咳払いをする。
「失礼しました。興奮し過ぎた。まだまだ修業が足りないようです。どうにも、正当な評価を得られない方を見ると、心が穏やかでいられなくなってしまいます。……我々はこれからも全力を尽くし、ミュゼルを追います。貴方の大切な方が無事であれるよう、貴方は祈っていてください」
 願わくば、
「――貴方が真の英雄になれますように」
 クルスは一方的に言いたいことを言うと、ラウルに背を向けてしまった。姿はすぐに見えなくなる。ラウルは一人、残された。
 目の前で、不自然に折れ曲がった鉄格子は、ラウルの心と同じ形をしている。

 

   ▽ 

 

前回・次回

 前回(29話)・次回(31話)

 

反省会

 今回の反省会は前回と同様です。何故ならば、このシーンは前回と続いているからです。文字数の問題で切っただけですからね。

 

 

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