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亡羊と遊ぶメランコリー――小説家志望・束木志埜のブログ

小説家を目指すわたくしのブログ。色々なことに関心を持ち、できる限りのことをしたく思います。小説・アニメ・漫画等々の感想や日々のこと、創作についても書いていきます。よろしくお願いします!

ネット小説『龍と奏でる英雄譚』35話

龍と奏でる英雄譚
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前回(34話)・次回(36話)

 

目次

 

前書き

 折角作ったプロットをセルフボツにしたのですが、すると、頭の中から何もが霧散してしまったかのような感覚に陥りました。

 今回は、わたくしがわたくし自身でボツをしたのでまだ軽傷ですが、これからわたくしの目的が叶うとしましたならば他者からのボツを喰らうこともあるかと思われます。そういう意味では、良い経験だったのかもしれませんね。

 

 ということで、本編。

 

 龍と奏でる英雄譚――35話

 

   ▽

 

「何が起こったんです!?」
 クルスは報告に来た聖歌隊の団員に詰め寄り、報告の内容を問い質した。普段は冷静を帯びているクルスだが、今回ばかりはそうもいかない。
 この王国にはミュゼルがいる。
 何が起こってもおかしくはないのだ。
 報告に来た聖歌隊の団員は、目を回しながらも、どうにか言葉らしきモノを作った。
「見たこともないような生物が、突如王国内に出現。民を、建物を襲っています! 聖歌隊はこれと交戦。一部部隊が壊滅状態にあります!」
「……総員! 処刑は中止! 早急に事態の対処に当たります」
 クルスの指示に従い、団員は一斉に動き始めた。
 クルスは自身の形の良い顎に手を添え、思考の世界に身を置いた。ラウルより、この王都にある禁歌が『生物の創造』の能力を持つことは聴いていた。
 今、王国を襲っているのは、その禁歌により生み出された生物だろう。
「あの見世物小屋の店主の仕業、ではないでしょう」
 ミュゼルの狙いは禁歌である。故に、ミュゼルよりも早く禁歌の在所を知った聖歌隊は、ずっと禁歌を手に入れようとしてきた。
 しかし、ことは上手く進まなかった。
 誰だって、はいそうですかと言って、重要な歌を譲ってくれる訳がなかった。それに、相手は禁歌使いだ。下手に刺激することによって、戦闘になっては困る。
 ここ数日、慎重に見世物小屋の店主との交渉を進めてきた。その結果わかったのが、あの店主は一筋縄ではいかない、という事実だ。
 奴は、貴族に、珍しくて強い動物を売りつけて仲を深めていた。金だけを手にすることが目的なのではなく、奴は名誉をも欲していたのだ。
 見世物小屋という迂遠な方法を使ったのも、あまり大々的にことを行ってしまうと禁歌が露見してしまうからだろう。小賢しい性格の男だ。
 そのような彼が、安易に自身の動物に王国を襲わせようとするだろうか。
 あり得ない、と判断できる。
 だとすると、犯人は別にいるということになる。
「……ミュゼル!」 
 見世物小屋の店主はおそらく、既に殺されているのだろう。禁歌はミュゼルの手に渡った、と考えるべきだ。
 クルスは聖歌隊の戦力の殆どを見世物小屋付近に配置していた。聖歌隊が露骨に護衛しているのは不自然だったので、一般人に混じらせるという小細工まで弄していた。
 いつかミュゼルが現れることを把握していたからだ。待ち伏せ、と言っても良い。聖歌隊の戦力と、いざという時は禁歌使いである見世物小屋の店主もいる。更には、英雄の一角、バロックアートにも警戒を頼んでいた。
 それだけの戦力が、あっさりと突破されてしまったのだ。
「僕がいた程度ではどうにもならなかったでしょうけれども……」
 それでも、危険の中に自身がいなかったという事実が許せなかった。
「皆さん、僕たちのやることは一つ。民を守ること、それのみ」
 このとき、クルスはミュゼル捕縛を諦めていた。それよりも優先するべきは、民を逃がすことであった。
 ミュゼル以外の罪歌七音が警戒しないように、警戒せよとクルスは民に言っていない。逃走の準備一つ、させてはいなかった。
 その決断は間違っていない。
 仮に、民だけを事前に逃がしたとしても、ミュゼルは絶対にその逃走行為を見逃さないだろう。民が逃げるということは、ミュゼルの所在が国に露見しているということを示す。そして、逃がした民の誰かに禁歌を持たせている可能性も発生してしまう。
 そうなれば、ミュゼルは皆殺しを厭わない。
 今も民は順調にその数を減らし続けているだろう。それでも、全滅はしない。
 クルスの残酷な判断のお陰、と言えるだろう。
「第一は民を逃がすことであり、交戦は最低限でお願いします。ミュゼルを発見した場合は、時間稼ぎに終始してください。戦闘ではなく、会話をした方が時間は稼げるでしょう」
 クルスの命によって、聖歌隊はいつでも出られる状況になっていた。クルスはそれを確認すると、上司としての言葉を飛ばした。
「貴方たちは勝手に死ぬことが許されていません。その命は貴方の命ではなく、民の為の命です。死ぬときは――民を守って死になさい」
「はっ!」
 クルスの冷酷な激励に、聖歌隊の団員たちは揃って敬礼を取る。背を向け、駆け出す。
 けれども、その背中の一人にクルスは待ったを掛けた。
「貴方はラウル様の怪我の治療をお願いします。完治させてしまって構いません」
「まっ、待ってください! 自分は、最前線で――」
聖歌隊は貴方の正義感を満たす場所ではありません」
 反論を許さぬ強い口調。クルスは聖歌隊団長として、人に甘くすることができない。誰かを守る為に、何かを捨てることを彼は知っているのだ。
 クルスの言葉に、団員は俯き、奏唱を開始した。
 だが。
「オレなんかのことは良い。行かせてやってくれ」
 と、満身創痍のラウルが言う。彼は砕けた歯が地面に落ちるのを見て顔を顰めた。
「オレを治してる場合じゃない。それよりも、こいつの月魔法は他の怪我人に使ってやれ」
「それはできません」
「……何故?」
「貴方は――英雄だ」
「だから何だ? オレは無の英雄だ。何もできない。ただの一般人だ」
「そうかもしれません。貴方がミュゼルと戦っても、負けることしかできないでしょう」
「だったら、尚更オレなんかを治してる暇はねえだろう」
 違う、とクルスは否定する。
 力の籠もった、強い視線が真摯にラウルの瞳を捉える。
「ラウル様が投獄されたとき、僕は貴方に申し上げました。『貴方が行って、何になりますか?』と。貴方のやるべきはミュゼル討伐にはない、と」
「そうだな」
「貴方がやるべきことは変わっていません。貴方が、英雄がするべきことは、悪役を倒すことなんかじゃない。そのような簡単なことじゃない」
 クルスは言う。
 その瞳は真っ赤に腫れ上がっている。自身の足りなさを、自身の弱さを悔やんでいるのだ。
 クルスは目の前の英雄に対して、嫉妬に近しい羨望を抱いていた。ラウル・シーンスは決して強くはない。もしかすると、自分よりも弱いかもしれない。
 だが、そのようなことは些事なのだ。
 クルス・フラ・ドネートは知っていた。
 真の英雄……その役割を。
「強い敵を倒す必要なんてありません。強い力なんて必要ありません。強い武器も、強い心だって必要ないのです。英雄はただ――」
 英雄は、
「そこにいるだけでいい」
 
   ▽

 

 

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