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亡羊と遊ぶメランコリー――小説家志望・束木志埜のブログ

小説家を目指すわたくしのブログ。色々なことに関心を持ち、できる限りのことをしたく思います。小説・アニメ・漫画等々の感想や日々のこと、創作についても書いていきます。よろしくお願いします!

ネット小説『龍と奏でる英雄譚』36話

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前回(35話)・次回(37話)

 

目次

 

前回までのあらすじ、というか前書き

 正直、最近飽きてきています。何に、と問われますと、それはブログに……としか答えられないでしょう。けれど、飽きたというのも、やや語弊のある言い方かもしれません。

 正確を求めるのでしたら、時間がない、という方が正しいような気がしております。

 

 お話を書くための時間が。

 

 電撃文庫さんに応募する用のお話、二度目のセルフボツによって白紙化です。早く設定とプロットを練り直して、そろそろ書き始めないと推敲ができません。実はわたくし、推敲をきちんとしたことがないので、今回こそは……と息込んでいたのですが。

 

 どちらの方が良いのでしょうか。

 強烈な世界観の個性的、かつ孤独的なお話。

 それとも、王道のただ熱い、主人公がひたすらに格好良くなるお話。

 

 どちらもわたくし好みなのですが……

 

 ちなみに、前回はクルスさんが何やら言い始め、ラウルの処刑を中止。王都を襲った謎の怪物たちへの対処を始めました。

 ということで本編。

 

 龍と奏でる英雄譚――36話

 

   ▽

 ラウルは目の前の男の言い分が何も解らなかった。それでも、クルス・フラ・ドネートが本気であることくらいはわかった。そして、彼の言葉を無視してはいけない、ということも。
 クルスは、涙すら流していた。
 何を伝えたかったのか、ラウルには理解不能だ。
 クルスは『そこにいるだけでいい』なんて戯れ言を、この一大事に本心から言ってのけたのである。
「僕はもう行きます。貴方は治療が終わり次第、自由にしてください」
 言い残し、クルスは走り出した。聖歌隊の団長というだけあり、その速度はラウルの目でも追うことができなかった。ただ、爆裂するような足音だけが残された。
 そんな中、ラウルと二人きり、残された聖歌隊の団員が奏唱を開始した。掠り傷を治す為の簡単な歌ではない。重傷患者を治す為に行われる、かなり趣向を凝らした大魔法だ。
 楽器の演奏をしつつ、聖歌隊の団員は朗々と奏でる。
「おい、別にそこまでしてくれてくても……」
 ラウルの台詞は完全に無視される。相手は奏唱をしているのだから当然だろう。
 ラウルは思う。悪いことをしたな、と。
 この規模の魔法を習得するのは並大抵の覚悟ではできないことだ。音程、音色、呼吸の一つだって計算し尽くされている。少しでも狂いがあれば、このレベルの魔法は効果を随分と落とす。それはつまり、常に百点を取り続けるようなモノだ。
 ここまで修練してきたということは、それだけ聖歌隊として誇りを持って訓練してきたのだろう。今日のような日の為に。
 それをラウルの存在が台無しにしている。
 それに、人の喉には限界がある。大魔法は声量も要求されるので、連発はできないのだ。集中力も、永遠に持続するものではない。この奏唱を終えた後、目の前の団員がどこまで貢献できるのかは未知数である。しかし、万全とは言えなくなるだろう。
 やがて、奏唱が完成した。
《作詞作曲ティースト・フォール 月歌の七番 終幕――凱旋の英雄へ捧ぐ奏唱(アリア)》
 曲名の宣言と同時に、音符の嵐がラウルを襲う。鮮やかな色合いの音符たちが、次々とラウルの肌に触れて溶け込んでいく。音が肌に馴染むと、音符に合わせた音が響き、身体の傷も塞がっていく。
 ラウルの傷は、かなり見れたモノに変貌を遂げていた。
 大魔法を行使した影響で、聖歌隊の団員は息を切らしている。肩で息を、額には汗を、表情は苦々しい。彼はラウルに向かい、
「ラウル・シーンス。自分は貴方を認めてはいない。ですが、クルス団長は貴方を回復させろとおっしゃった。だから、自分は貴方を――信じる」
「信じる? ……オレなんかをか?」
「貴方を信じたクルス団長を信じる。……行ってくれ」
「あんたは?」
「自分の声を聴けばわかるだろう?」
 聖歌隊の団員の声は、老人のモノのように嗄れていた。単独で大魔法を行使したが故の代償なのかもしれない。彼は自虐的に笑みを見せると、
「無の英雄ラウル・シーンス。持って行け」
 そう言って、袋を投げ付けてきた。ラウルはそれを受け取ると、その重みに驚いた。袋の中からは金属が擦れ合う音がする。
 中を見ると、そこにはラウルが愛用している短剣の数々。
 念入りに手入れされており、その上、新しい刃も入れてある。
「これは……」
「必要になるだろう? あと、これも持って行ってくれ」
 聖歌隊の団員は、己の剣を鞘ごとラウルに差し出してきた。
 剣というのは、聖歌隊にとっての誇りだ。命や魂といっても不足はないだろう。それを他者に預けることなど、普通はあり得てはいけない。
 ラウルとて、それくらいのことは把握している。
 困惑を隠せないでいるラウルへと、聖歌隊の団員は頭を下げた。
「手入れは怠っていない。貴方の剣と比べても、自分の剣は格が違うと思う。頼む。自分の剣を使ってくれ」
 聖歌隊の団員の願いは、つまり、
「消耗した自分が振るう剣など、高が知れている。だが、貴方が使うとすれば話は別だ」
 悔しいのだ。
 民を守る為に磨き続けた剣が、守るべき者に届かないのが。
 誇りを、信念を、気持ちを、彼はラウルへと託そうとしているのだ。
 ラウルは逡巡と共に、あやふやな覚悟で以て、その覚悟を受け取った。
「感謝する。自分は別の剣を取りに行く。貴方は行ってやってくれ」
 聖歌隊の団員は僅かな安堵の後、ふらつく足取りで剣を探しに行った。
 ラウルは動く足に任せ、処刑場の幕を潜り抜けた。
 そして見えたのは、ある種の地獄絵図。
 音楽国家フーテは――壊滅状況にあった。

 

   ▽

 

前回・次回

前回(35話)・次回(37話)

 

 

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